06.さながら人魚のように (ルフィ)


 パシャン、と水面を足で叩く。足を動かすたび、風が流れるたびに、潮の匂いを運び髪を撫でる。満月にはまだ満たない欠けた月が綺麗な夜空に、海面に、ぷかりと浮かんでいた。また足で海面を揺らせば、その月は簡単に形を変える。

「何してんだ?」
「…ルフィ」

 隣座るぞ、と端的に言ってルフィはどかりと腰を下ろす。ただ、私が海面に足を伸ばしているのと違って彼は膝を折り曲げて小さくなっていた。膝に顔を乗せ、こちらをじっと見上げている。

「なに?」
「なあ、足、気持ちいいか?」
「うん、とても」
「そか。海は、いいよな」

 にかっと笑顔を浮かべたルフィは膝を抱えたまま水平線を眺める。もしかしたら、海面の月を眺めていたのかもしれない。悪魔の実を食べた彼は海に嫌われた。きっと、ルフィはクルーの誰よりも海を愛し自由を愛する人なのに。ぱしゃぱしゃと足をばたつかせて水飛沫をあげる。ときおり隣のルフィにかかれば、やめろよ、と楽しそうに言われた。
 ぱしゃり。水面の月が揺れる。

「ルフィ」
「んー?」
「海、好き?」
「ああ、好きだ」
「じゃあ私とどっちが好き?」

 首をこてん、と傾かせてルフィは悩むように私と海を見比べる。なんだかそれが面白くて、くすくすと笑う。こんな問いに意味はない。彼の中で答えなんかでないだろう。嫌な問いを出しちゃったな、と何でもないと言おうとした。

 不意に、足に、つう、と指が這う。

「ひあっ」

 ミニスカートから覗く白い足が、びくりと震える。そしてそのままルフィは指を滑らせて足を濡らしていた海水を掬う。にしし、とルフィは笑った。

「海と同じくらい、好きだ」



それは彼にとっての、最大級の゛愛してる゛ )
 海に嫌われた、海を愛する人


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