05.寒いときには二人で (謙也)


「さむい」
「…お前さっきからそればっかやっちゅーねん」

 呆れたような声を含む謙也に私は少しだけ頬を膨らませる。暖房が既に切られた教室で二人。何をするわけでもなく向かい合って椅子に座っていた。間にあるのは机。
 私は寒い寒い言ってるのに謙也は寒がっている様子もなく、学ランのままマフラーを巻いている。こっちはコートもマフラーもタイツも靴下ももこもこだっていうのに、この男は。

「ねえ、謙也」
「んー?」
「さむい」
「分かったっつの。寒いんやったら暖かいとこ行ったらええやん」

 ひらひらと手を振って椅子を片足浮かせる謙也に、イラッ。(なんも分かってへん、この男)。もう何度目か分からないくらいのその言葉を心の中で繰り返して、私は思いきってコートを脱いだ。

「なんやっ!?」
「さむいの!」
「やったらコート脱ぐな!」
「あっためて!」
「はあ?」

 身を乗り出して、机を越えて。謙也に乗っかるように抱きつく。思わず椅子が大きな音を立てて後ろへ転がった。痛い痛いと騒ぐ口を強引に手でふさぐ。もごっと呻くような声が聞こえる。
 中途半端な姿勢のまま(というか痛そう)、腕を背中まで回し、絡むように抱きつく。(あったかい)。

「……痛いわ、このアホ」
「謙也あったかー」
「聞いとんのか!」

 べし、と頭を叩かれる。痛いと抗議すればこっちのが痛いと怒られた。

「…はー、もうこの娘はー」
「諦めて、お父さん」

 甘えるように胸へ顔をつければ、諦めたように溜息をつくような音を聞いた。ぐい、と体が近づいて、コートがかけられたのが分かった。引きはがされるのかな、と待っていれば、背に手が回されて余計密着する。

「?」
「こっちのが暖かいやろ」
「…うん」
「あとちょっとだけやからな」
「やった」


くっついて暖めて )
 寒がりと子供体温


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