04.一人ではない暗闇で (臨也)


 暗い暗い路地道。黒いパーカーと、それに滲む赤黒い液体。それは広がりつつあり、いずれ彼の体を侵食し、蝕み、死への道を辿っていく。うつ伏せで倒れる彼へ、そっと近づく。こつん、とヒールの音がやけに大きくて、少しだけ泣きたくなった。

「何、やってんの、臨也」
「……はは、見て…分かって、よ」
「刺されたの」

 腹を押さえて、暗くても分かる程に顔が白い。もう体に血なんて残ってないんじゃないかって位。私は臨也の目の前に立って、彼を見下ろした。彼は何も言わず笑っているようだった。

「他人を弄ぶから、そういうことになるんだよ」

 不幸を嘲笑って他人を見下すから。邪魔ばかりして遊ぶから。だからそういうことになるんだ。そういえば臨也はやはり笑った。どうしても私は笑えなかった。
 臨也に死んでほしいと思う人間は少なくない。池袋最強は言わずもがな、彼に人生をめちゃくちゃにされた人間はたくさんいるだろう。そういう私もその一部だ。だから世界で一番死んでほしい人間は、臨也だ。

「臨也。どういう気分?」
「…痛いかなぁ」
「随分と気楽なんだ。そのまま放っておけば死ぬ?」
「俺は死なないよ」
「………」
「どう、して、だと思う…?」

 痛みと苦しみに顔を歪める臨也が、ふと体から力を抜く。

「君がいるから」

 殴ってやりたい。思わずそう思ってしまった。綺麗に笑ったのはそれで最後。臨也はそのままかろうじて開けていたであろう瞼をゆっくりと閉じていく。押さえた手から出る血は今もなお止まらない。本当に失血性で死ぬんじゃないだろうか。
 私は眠る臨也を見下ろした。ぽたり、と彼の血だまりに水が零れる。思わず頬に手を伸ばせば、濡れた。

「…バカじゃないの」

 私は臨也に人生を狂わされた。それは、

「……死ぬな、ってば。…バカ」

 それは、彼を愛してしまったことだ。
 決して返ってくることがない愛情。向けてしまったのが彼だったことが、私の人生最大のミス。

「──生きてっ!」

 べっとりとついた手で、携帯が真っ赤になった。溢れる涙はまだ止まらない。
 遠くでサイレンが聞こえてくるのは、そう遅くはなかった。


ひとりにしないで )
 愛してると言えない人


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