03.私の呼吸をあげる (ルフィ) 手が差し伸べられる。細く白い腕にはたくさんの傷がついていた。 打撃が銃撃が効かない彼の体は筋肉すらもゴムで、その体躯は船にいる男の誰よりも細い。けれど実際は彼は船の誰よりも強く、そして真っすぐな男だ。 「ほら、迎えに来たぞ!」 私を捕える鎖を簡単に壊して、ルフィは大きく笑う。その顔にも、傷がたくさんついていた。 「……また来たの、ばか」 「失敬だな。仲間が連れてかれたんだから、奪いに来て当然だろ!お前バカだな!」 何度も何度も、そうやって彼は笑いかける。弱くてすぐに捕まる私に、懲りずに捨てずに彼は迎えに来てくれる。 私は政府の間で相当価値のある人物らしかった。最早生き残りが私だけの種族。どの種族よりも最弱で、それゆえに価値がある。私は海でしか活躍できない。海でなら、活躍できる。そう、たとえば、彼が溺れているときなど。 「帰るぞ、船に!」 「ルフィ……」 手が自由になった私を庇うようにルフィが背を向ける。たったそれだけの動作で分かる。ここはもう既に包囲されているのだ。銃口がルフィに向けられる。思わず伸ばしてしまった手ごと、彼は私を抱きしめる。 「舌、噛まねえように気をつけろよ」 「……え?」 「行くぞ」 片手で簡単に私の体を閉じ込めた彼は、もう片方の手で空高く手を伸ばす。それは天井の管に伸び、巻きつき、そして銃が放たれる瞬間に、彼はそこまで一気に飛んだ。物凄い風圧が全身を叩く。私は彼の言った通りに強く歯を食いしばり、それに耐える。乾ききった全身を、ルフィが強く抱きしめる。からからの喉が、少しだけ直った気がした。 「お前らなんかに、俺の仲間はやらん!」 「ま、待て麦わら!!」 「誰が待つか!」 よし、いくぞ。 もう一度彼は力を込めて、暗く冷たい部屋から脱出した。 「ルフィ、」 「んー?」 「ごめんね…毎回、私だけ、弱くて」 「いいよ、気にすんな。それにお前は弱くねぇよ」 「……」 「俺は何もできねぇ奴を仲間になんてしねぇよ。お前は俺の弱点を守ってくれる奴だからな!」 子供のような無邪気な笑顔で、言われる一言が、どんな言葉よりも嬉しいだなんて、きっと誰にも分からない。船員は全員ルフィに救われた。そして私も。 枯れた涙が一筋流れる。その涙は地面に着く前に、綺麗なきれいな水晶へと変わった。 「ルフィ」 「うん」 「ありがとう」 もう彼は何も言わなかった。輝き続ける笑顔と、細く暖かな腕が、私の何よりの宝物。だから、 ( あなたのために、強くなる ) 振りかえらない人 だから隣に並びたい |