02.君を丸ごと飲み干したい (静雄)


 がり、と肩に歯が押しつけられる。まるで肉を抉り取られるような気分になったが、特に何も言及することなくそのままやり過ごす。私の上に覆いかぶさるように馬乗りになっていた静雄の頭をただ静かに撫でて、噛むなよ、と願をかけるしかない。人間技じゃない怪力を持つ静雄の手にかかっては私を壊すことなんか赤子の手を捻るほど簡単だ。最も…それを静雄が望むかどうかはまた別の話だ。

「なあ」
「?なあに」
「お前は強いな」
「……ええ?静雄に言われたら私は世界最強になるね」

 茶化すように言うと、肩に顔を埋めていた静雄は呆れたように少し笑う。そのたびに目の前で揺れる細い金色の糸を指で掬った。そして遊ぶように指にくるくると巻きつけては離す。それがくすぐったいのか静雄は少しだけ体を揺らした。

「私は強くない。私が強いんだったら…静雄が弱いんだよ」
「…面白いこと言うな」
「そういうとこが好きなくせに」
「ごもっともだ」
「ふふ…素直な静雄なんて珍しい」

 ふと、静雄が上半身を少し持ち上げて、真上から私を覗きこんだ。見下ろす、といった方がいいのかもしれない。彼は黙っていれば温厚な優男に見える。一回切れたら止まらない性格でも、熱が冷めればそんな姿も見当たらなくなる。
 けれど、この真下から見下ろす時だけ。どんなに時を過ごしても彼の瞳から消えない熱が、私は好きだった。

「…キス、していいか?」

 こてん、と首を傾げて静雄が尋ねる。私は本当に可笑しくなって、声をあげて笑った。「なんだよ」。不機嫌そうな声音がすぐ傍で聞こえる。

「ほんとに今日は素直だね」
「俺はいつも素直だ」
「えー?」
「もう黙れ、」

 あつい熱が唇を塞ぐ。彼の呼吸が、心音が、唾液が、心が。流れ込んでくる。

「今日は、熱いな」


君とすべてを共有したいから、君の熱を受け入れる ) 弱虫な捕食者






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