「……は?」

 短い沈黙を破ったのは、疑ってますオーラ全開の不機嫌な一言だった。



、ほんき?」
「うん?ん、ほんきもほんき。マジマジ」

 じろじろ、と上から下までじっくり観察される。こんなにあからさまに観察されたのは初めてだ。謙也は背中に冷や汗が伝う。どうしてこんな状況になっているのだ。というか、こいつ誰。そもそもなんでのこと呼び捨てやねん。お前、呼び捨て嫌いやないか。っちゅーかまじ誰。
 謙也は目の前で生意気そうな瞳を吊り上げる少年を見る。そこでピコンと頭にはじき出されたのは先日交わして従兄弟との電話だ。

 ── 「めっちゃ図太い神経で唯我独尊、三白眼でごっつー睨んでくるアメリカ帰り」

「……こしまえ?」

 瞬間、彼の顔が酷くゆがむ。全身全霊で不愉快だという顔をされた。
 しまった。彼の名前は越前だ。金ちゃんがずっとこしまえ、って言ってるからうつってもた。 思わず口を覆うと越前はラケットを肩でとんとんと叩いた。 なんでこんな年下にびくびくしとらなあかんねん。なんや、お嬢さんくださいーって言っとるみたいやわ…。

「…えちぜん、だよ、謙也。金ちゃんじゃないんだからあ」
「せ、せやったな。すまんな、こ…えちぜんくん」
「はあ」

 なんだか財前と似たようなテンションだ。不覚にもペースが持ってかれつつあるとは。
 しかしがどこか大人しい。確かに年下に色気を感じないとは言ってたものの、彼女の姿はどこかお姉さんじみている。越前が2歳も年下だからなのか。

「で?何でこの人なわけ?」
「 (
うっわーしょっぱなから直球きたわ) 」

 じ、と再びあの睨むような視線がやってくる。

 少し状況を整理しよう。
 彼は越前リョーマ。が名前呼びを許している一人であって、幼馴染。アメリカで出会ってテニスを始めたのもこいつとがきっかけ。連絡が取り合えなくて、東京と大阪と分かれてしまった為、全国大会であえるのを待っていたと。
 で、俺はそのに引っ張られてここに来たっちゅーわけや。

「え?なにが?」
「何が…って付き合ってるんでしょ、この人と」
「おおー凄いねえ、リョーマ。みんな一発じゃ分かってくんないのに」
「だって名前呼び捨てじゃん。ダメ、って言ったのに」
「うんうん、ごめんなあ。でもその約束破ってもいいぐらい謙也のこと好きやから許してえや」
「俺は?」
「リョーマのことも好きだよー。家族で一番ね」
「ふーん」

 どうしよう。ボケも突っ込みもないこの会話にどうやってつっこんでいけばいいのだ。そもそもここに俺いる意味あるん?次の不動峰との試合、俺二番手のダブルス2なんやけど。白石がごっつー睨んできてるんやけど。もうあかん、はよ帰らせて。

、連絡先交換しぃ。俺ら次試合なんやで」
「あ、そうだった。リョーマ携帯は?」
「いまない」
「ええー」
「 (なんっでこんなにスロースピードなん!?) 」

 謙也は繰り広げられるスローな会話の応酬に体の奥がむずがゆくなってくる。ゆっくりなものは自分には向かないのだ。さっさとちゃっちゃと物事を進めてほしい。

「ほな、また後で落ち合いや。青学におること分かったんやから」
「せやね。んじゃリョーマまた後で」
「いやいや待て待て!どこで落ち合うか決めろっちゅーねん!」
「ああ、そうそう。それじゃあ終わったら迎えに行くね」
「ってどこか分かるん?」
「大丈夫だいじょうぶ。うち、リョーマ見つけれへんだことないもん」

 へいき、とニコニコ謙也の好きな顔で笑う。しかし複雑である。
 さすがに彼女も白石の睨むような視線に気づいたのか、少しだけ会話のペースが速くなった。
 もしかしたら先程の速さが本来の速さなのかもしれない。もし、そうならば、いつものペースは自分が焦らせてしまってるんじゃないだろうか。謙也は眉をひそめる。

 するり、と腕をとられた。そのまま腕を組むように隣にぴったりとがはりつく。

「それじゃあリョーマまた後でね!四天宝寺は負けやんからな!」
「はいはい。あ、謙也…さん?」
「なん?」

 すでに方向転換しているはそのまま振り向くことなく進んでいくので、仕方がなく謙也は首だけ振り返った。
 が、ぴしりとそのまま固まる。

、よろしく」

 ゆるやかに浮かべられたのは、挑発するような表情だった。

「謙也!行くで!」
「…おう」

 お前の幼馴染って怖いな。
 その一言を飲み込んだのは、さっきよりも可愛い笑顔のせいや。

 おそらくは次にあったときも俺は同じように馬鹿にしたような挑発したような目で見られるのだろうけど。俺と年上と思わないほどゾンザイな扱いなのだろうけれど。きっと彼からを奪ったことは許されはしないのだろうけど。
 まあ、ええか。

「ねえねえ謙也」
「なんや?」
「リョーマのことどう思った?」
「ええーせやな…」

 ここで生意気なガキって答えたらどうするんやろ。 思わずわくわくとしてしまった好奇心を押さえつける。そんなことをしてみろ、嫌われるかもしれない。謙也は一度考えるそぶりをしてからを見やった。あきらかに楽しんでいる。

「仲ええなって思た」

 その言葉にきらん、とが目を輝かせる。

「やきもち?」
「なっ!ちゃうわ!」
「大丈夫だいじょうぶ、心配せんでもリョーマは家族の中で一番好きなんやから」

 きらきら、とは輝かしい笑顔。ときどき彼女の行動が読めなくなることがある。いつも突拍子なことをするため、読めたことなどないのだが。俺に好かれてるのを確認してるのだろうか、これは。それとも俺の反応見て楽しんどる?

「一番愛しとんのは謙也やからね」

 でも、やきもちも嬉しい。

 ぼ、と謙也はいきなり体温のあがった頬を押さえる。片手はに捕まえられてるから片手だけで。
 隣を見ればにこにこと楽しそうに笑う彼女の姿。

 あーもーあかん!

「俺も愛しとんで、

 そう、言えば、は、うれしい、と綺麗に笑った。





スロー・スロー・スローペース
お久しぶりです、幼馴染くん





ちょっとやきもちをやいて欲しかったヒロイン。彼女は少し謎なので謙也くんが読み取れるわけがありません。しかし謎っこにしすぎた。そしてリョーマ空気。ヒロインのテンションがスローなのは昔からのこと。テンションハイというのは四天にきてから学んだことなので、必然的にリョーマの前では静かになります。
3年生設定のため、少しだけ謙也くんヘタレ脱。愛してるもいえます。成長したね!
そしてこれから謙也くんはリョーマくんに逢うたびに舌打ちをかまされることになるでしょう。

ぐだぐだ感が半端ないですが、こんなもんをsssに放り込んでいきます




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