告白。そう、告白?

さんが好きです」

 目の前の男の子はそう告げた。生徒数が多い四天宝寺では見たことがない人なんていっぱいいるし、クラスがえで一緒になった子も3年になるともう覚えていない子もいる。それだけ生徒の数が多くて、白石は2年、謙也は1年だけど、続けて一緒にいれるのはある意味すごく奇跡だ。

「好きです」

 頭が真っ白になる。そう、告白されるのは初めてじゃない。

「白石と付き合ってても、」

 でもされたのは一人身の頃だった。
 男の子と付き合うなんて考えたことのなかった、マネージャーで忙しかった頃。すべて断っていた告白。私の好きな人を勘違いして色んなことを言う人がいた。でも、

「好きです」

 なんで?




Love Game
SPECIAL SCANDAL





 こつん、と机をシャーペンの頭でたたく。白石と交代で書くことになっている部誌を睨みつけて、もう一度こつん、と叩いた。こつん、こつん、音はどんどん間隔が短くなっていく。こつこつこつ。

「だーっ何やねん!さっきからうっさいな、お前!」
「はっ!あーごめんごめん。って君もうるさい、一氏」
「標準語になんな、帰国子女。つーか何で着替え中の部室におんねん。出てけや」
「ええやん。そっち見てへんし。一氏やし」
「どーゆー意味じゃ」

 一応着替えている場所に背中を向けているのだからそう喚かなくても。は少しだけ眉を顰めてもう一度部誌と向き合った。考えようとしているのに考えがまとまらない。こんなこと久しぶりだ。は雨が降ると体調が悪くなるという体質の持ち主だけれども、今日は空っ晴れだし、乾燥している。長袖をくしゃり、と握った。
 目の前でがたり、と椅子を引く音がする。

「なあに?何か悩みごと?」
「小春ちゃん…」
「珍しいわねぇちゃんが悩み事なんて」
「おまえ能天気やもんな、いっつも」

 目の前に腰を下ろした小春ちゃんにスポーツドリンクを。そして不機嫌そうに隣の椅子に偉そうに座った一氏にはカロリーメイトを貰った。…なんで朝ごはん食べてないって知ってんのや、こいつ。

「顔色悪いわ、あほ。そんなんで謙也におうてみぃ、叫ばれるで」
「……おおきに」

 なんとなくその気遣いが嬉しくて、カロリーメイトを一口かじる。ぱさぱさする口内をスポーツドリンクで流し込んだ。白石さえも来ていないこの朝練に顔を出したということは、この二人はコントの打ちあわせがあったということで。申し訳ないことをしたなあ。

「なあ、二人はもしなあ?好きな人に恋人いたら告白ってする?」
「あらあらあら!なあに?告白されたの?」
「謙也が浮気って線は…」
「「ないない」」
「あいつがそんな大層なこと出来るわけないやろ」
「ていうかちゃんでいっぱいいっぱいよねぇ」

 あのヘタレが、と気合を込めて語る一氏に苦笑しながらはもう一口かじった。
 悩み、といえば悩みではない。ただもんもんと考えてしまうだけだ(悩み?)。

 が付き合い始めたのはこちらからの告白ではないし、(謙也からだったから)、そもそも恋愛するということが芽生え始めたのがごく最近なのだからにはよく分からない。むー、と首を傾げると小春ちゃんが悩むように口元に手を当てた。

「そんなん諦められへんからに決まっとるんちゃう?」
「諦めるためってゆーのもあるかもしれへんわね」
「あーあーモテるやつの厭味にしか聞こえへんわあ。そういうのは白石に相談せえや」

 はんっと鼻を鳴らして一氏が机に肘を置いて姿勢を崩す。小春ちゃんが注意したら一発で直ったけど。
 諦めれない、諦めるため。もしも、そう、謙也に彼女がいたら、私もこういう気持ちになっていたんだろうか。と思うけれど、彼が告白してこなかったらそもそも彼のことが好きだなんて思っていなかったかもしれない。それも困るなあ。

「…うち、けんやのかのじょ、だめ?」
「はっ?」
「……だってぇー」

 あ、やだやだ。視界が潤む。
 声が弱弱しくなっていくのが自分でもわかる。何が苦しかったって、何に悩んでいたって。

「わたし、白石の彼女じゃないのに…っ!」
「はああああっ!!?」

 ぽろ、と一滴だけ涙をこぼせば目の前の男二人は目に見えて焦ってわたわたとしている。小春ちゃんに差し出されたハンカチに頬を伝う涙を拭いた。普段なら小春のハンカチなに使っとんねん!とか言ってくる一氏が何も反応してこない。

「ど、どどどおいうことやねん?」
「そうよ!むしろ謙也くんにちゃんなんてもったいない…!」
「なんで白石?あ、いや…傍から見たら分からんこともないけど…」

 仲ええもんなあ、お前ら。と一氏にぼそりと呟かれた。そりゃだって仲良いことを否定する気はない。白石なんて2年同じクラスだし、男子の中では(謙也を除けば)一番仲がいい。
 でも、まさか白石と付き合ってることになっていたなんて。

「むり!色気がある子は好きやで!けど、ちゅーとかえっちとか絶対できやんもん!」
「女がそんなでかい声で言うな!アホ!っちゅーかちょっと黙り!誰かくんで!」

「…なんの話しとんねん…?」

 はっと三人そろって顔をあげる。ぎい、と重めの部室の扉が開いて、そこには白石と謙也が同様に首を傾げて立っていた。謙也にいたっては彼女が口走っていた単語に焦りを隠せない。

!? おま、なんで泣いて…」
「白石!」
「おおお!なんや!」
「ウチらって付き合ってないやんな!?ちゅーもえっちもしてない…」

「待て待て落ち着け!ちょおおお黙れやあああああ」

 がたんっと音を立てて立ちあがった一氏がの口を後ろから塞ぐ。むぐ、と息がつまったが気にされず、ぽかんと口を開いたままの二人を置いて椅子に座らされた。

「え、待って。なんの話?謙也が死にそうなんやけど」
「おおおおお落ち着いて聞け、白石」
「お、おう…いったんお前が落ち着いてや、ユウジ」

 真っ白、という言葉が一番似合う状態の謙也の後ろ襟を引いて白石が部室の中に入る。ほぼ強引に引っ張られた謙也は痛みに目が覚めたらしく、訳の分からない言葉をはきながら椅子に座らされている。

「…で?」

 部室に来ていきなり誤解を招くような言い方をされた白石はの目の前に座ってこちらを真剣に見つめる。謙也はそんな白石の隣で魂が抜けたような、けれど唇は引き結ばれてどこか目も吊りあがっているようにも見えた。お、怒ってるんかな。だんだん冷静になってきたかも。わたし何口走っとんねん。

「…その、告白してきた人がですね、」
「はあ?!お前告白されたん…」
「謙也はちょお黙り」
「…はい」

 ぎっと白石の強い視線に射抜かれて、戻ってきた謙也がすぐさま黙らされる。痛い沈黙の後、は長く息を吐いた。

「白石と付き合ってんのやろ、って」
「……ほお」
「ありえん」
「ありえんな。誰やねん、そんな噂流したん。…俺に彼女が出来やんかったらかんぺきお前のせいや」

 先ほどのと同じように深く息を吐いて白石は椅子の背中にもたれる。
 特に好きな人いないくせに、何言うてんのや。 む、と口を尖らせると謙也がずいと身を乗り出してくる。

「誰や、そいつ」
「うん?」
にこくってきたやつ。人の彼女に何してくれとんねん」

 え、分かんない。 謙也の真っすぐな視線から目を逸らして呟くと、顎を持ち上げられて視線を合わせられる。
 なに、なに。めっちゃドキドキするんやけど。

「ま…しゃーないんかなあ。まだ付き合って半年も経ってないんやし」

 す、と手が離れる。諦めたような口ぶりで眉を顰めている。

「何いうてん。そない弱気なこと言うとると盗られるで。ただでさえ学園の二大美人やのに」
「そおやで。謙也と付きおうとるなんて奇跡に近いで。しっかり捕まえとかんと」
「おまえら…他人事やと思うてえええっ」

 にやにやと謙也に釘をさしていく一氏と白石。
 はふむ、とひとつ頷くと、先ほど謙也がしたように身を乗り出した。が、背もたれに力なく座っている謙也には届かない。しかたない、と机の上に片足を乗せて謙也の頬を捕まえた。

「ちょお、危ないで、
「っちゅーか…あの、近いんやけど…どしたん?」

 はい、ごたごた抜かさない。 は心の中だけでそう呟いてそっと唇を合わせる。
 その瞬間、部室の中の空気がぴしりと固まるのが分かった。

 そっと唇を離すと、何が起こったのか謙也は一瞬のうちに理解したらしく、完全に離れる前に顔を真っ赤に染めた。どもりながらの反論にくすくすと笑いを零す。

「え、おま、なにしとん?」
「ちゅー」
「んなこと分かっとるわ!」
「ユウくん落ちつきぃ。こんなんで騒いどったら付き合いきれんで」
「小春ぅ」
「…で、何か分かったんか?」

 机に乗りっぱなしのを白石がゆっくりと戻す。は唇に手を当てて少し悩んだ後、にっこりと笑った。

「うん。うちやっぱ謙也やないとムリ」

 やってキスした後の謙也、めっちゃ色っぽいんやもん。

 脱力した3人、ぷらすすばらしい喜びようの一人、そして機嫌のいい少女がこの後の朝練で見られた。
 事件はこの後。お昼の放送のラブコールは四天宝寺中の伝説のひとつになる。


「 わたし、は忍足謙也が好きです! 」





ラブコールをみんなに
お昼の放送に愛を叫ぶ





一番男らしいのは→彼女。
謙也は登場が少ないな…。ユウジがもっぱら突っ込み役。最後のはつまり、校内放送で彼女さんが告白したということですね。ようやるわ。けれどその後も消えない白石彼氏説。
このお話で一番可哀想なのは彼女さんでもなく謙也くんでもなく、彼らバカップルに振り回され続ける部員たちですね。2年設定→バカップルが初々しい+彼女さんが積極的+謙也くんがヘタレ。3年設定→バカップルができあがっている+謙也くんがヘタれてない+被害拡大。
時系列はバラバラに進めていくので、お次は何が出るか分かりませんが、こんなもんで続けていきます。



inserted by FC2 system