「くーちゃぁぁぁぁぁあああん」 ばーん、と3年2組の教室の扉が勢いよく開かれる。驚きで一度だけ静寂が広がり、そして開け放った人物を見つけてはみながそれぞれ自分のことをやり始めた。もうそれは既に日常茶飯事となっている。 「まあああたお弁当忘れてったやろ!もーうちの鞄重さ二倍になったんやけど!」 「おー白石妹、朝っぱらから元気やなあ」 「おはようございます、謙也先輩っ!」 ちゃっと白石妹、と呼ばれた少女は手を掲げる。と、謙也の目の前に沈んでいる少女と同じ髪色の頭へと思いっきり振り下ろした。 「いったあああ!ちょ、おまえ、就寝中のお疲れ兄さんに何すんねん!」 「ちゅーかお弁当二個持ったからて何で重さ二倍になんのや」 「いい質問ですね、謙也先輩!答えはひとーつ!うちお弁当以外持ち物ないもん!」 「こら!ちゃんと下敷きも持てきなさい言うたやろ!無駄がありすぎるで!」 「お前の存在も結構無駄だらけっちゃうん?」 「謙也ー妹が反抗期なんやけどお!」 「うっさい、黙れや、アホ」 薄いクリーム色の髪は上だけ纏め、きちんと手入れされている鮮やかな流れる絹糸のように風に流れる。茶色の瞳も丸く柔らかい印象を与える。 が。謙也は思う。目の前でくだらない争いをしているこの白石兄妹は黙っていたら美男美女兄妹なのである。あくまでも、黙っていたら。喋るとアホ全開の醜態をさらすのだ。それでもモテるのだから弁解もする気も起きない。 わいわい、と口論を続ける兄弟を横目に謙也はもう少しで白石(兄)の肘によって落とされそうなお弁当を救出した。そのお弁当を無理やり隣の白石の引き出しに詰め込む。…プリントはみでてんで。なんで完璧目指しながら変なとこ不器用やねん…。 「何いうてん!やってくーちゃん、昨日もヨガやったまま寝とったくせに!」 「アホ!そういうお前かて昨日はビリーやりながら寝とったくせに!」 「くるしい!(ネタ的に)」 「あ、せや、白石兄妹」 くるんっ、と二人同時に振り向く。どれほど騒ごうと謙也の声だけには反応する二人は何事、と首を(またもや同じに)(こいつらただの兄妹やろ)かしげる。 「このまえお前らが言っとった雑誌やけどな、侑士が東京にそれあるから送っといたってゆっとった」 「!!!」 雑誌とは、いわゆる健康オタクのための健康オタクのためにある健康オタクのためだけの雑誌ともいえる。マニアの間では人気なのだとしても、健康に対する努力にこれっぽちも興味のない謙也だったけれど、この兄妹があまりにも必死に探すので(もう大阪中の本屋をまわったらしい)(アホだ)(東京いけ)わざわざ従兄弟に連絡をしたというわけだ。 ええ男やろ、と謙也が胸をはると、二人がガッチリと彼の肩をわし掴む。 「謙也せんぱあああああい!もう愛してる!結婚したい!」 「謙也ああああ!お前はやれば出来る男やと思っとったで!俺のがええ男やけど!」 「素直に褒めろや!あと白石妹は兄貴がうざいで却下!」 「何言うてん!うちのがええ女に決まっとるやろおおお!見てみ、この名刺!今日だけのナンパの数や!」 「それは勧誘じゃ!ちょ、このポケットティッシュの怪しい店やんけ!」 「ふんっ俺のが大量や!」 「これカマバー!!めっちゃうける!」 「俺の美貌って罪やんな…」 「うっざ!」 どこからか出したのか机の上に広がるポケットティッシュの山に謙也が頭を痛くする。こんなにティッシュもろてきてどないすんねん!しかも怪しい店ばっか! とりあえずティッシュを一箇所に集めていざというときのためのビニール袋にティッシュを全部詰め込んで白石(兄)の鞄に詰め込んだ。……こちらも相変わらず無駄の多い鞄ですこと。絶対いらんやろ、この乾電池! 「おーい白石妹ーもうホームルームやでー帰りぃや」 「えええーやっば!田中ちゃん(担任)のために行ってくるわ!」 「田中ちゃんよりも俺のが格好いい!」 「今その話ちゃうから!もー白石も座り。妹ーまたなー」 「ん!謙也先輩またお昼にねえええ!」
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